ITForum&Roundtableコラム

2013年9月12日

ちっぽけな話

 スマホの連絡先や写真「失いたくない」9割以上、バックアップ実施は2割以下(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130905_614136.html )と聞けば、「さもありなん」と思う。消費者のITリテラシーが高まる前に、スマホによってITのコンスマライゼーションが起こったため、当然の状況だ。バックアップの必要性を訴えるためにした質問項目に、「スマホの連絡先を失った場合、友人・知人との縁の切れ目になると思うか」というものがあり、"いい大人"の半数が賛意を示している。その程度で縁が切れる相手は、友人でも、大切な知人でもない。思い出(写真)よりも、表面的な繋がり(連絡先)を遙かに重要視する点は今の世相を映している――などということはさておき、この調査結果を正とすると、バックアップソフトウェアベンダーがスマホ市場で稼ぐことはほぼ不可能だろう。端末ベンダーと通信会社がそれぞれすでに提供しているサービスによって、需要は十分満たされる。「簡便性」を大半の回答者が求めているが、スマホの機能から見ればそれはオプション・レベルで容易に実現できるもので、わざわざ専用ソフトウェア/アプリを購入するほどのことでもない。

 日本クアンタムのデータセンター向けオブジェクトストレージ発表(http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/20130905_614188.html )、クアンタム自体がDC市場でのプレゼンス皆無であり、特段興味を抱かせるニュースではない。が、バックアップソフトウェアベンダーのCommVaultと協業して、というくだりは、アイ・オー・データなどと協業するアクロニスよりも、ずっどエンタープライズ市場あるいはDC市場向けの匂いが感じられる。前者はデータの統合管理を意識したメッセージ。それに対して、後者は小型ストレージにソフトを付属させて販売するだけ。CommVaultは徹底してエンタープライズ市場へメッセージを発信、アクロニスは同市場を狙っていると言いながら、コンスマー市場で満足しているように見えるからだろうか。

 DC内ネットワークには「抽象化、自動化」という2つの変化が必要だ---米ニュアージュネットワークス CEOスニル・カンデカー氏(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20130904/502333/?ST=openflow&P=1 )。聞いたことのない社名だと思ったら、アルカテル・ルーセントがSDNビジネス開発のために設立したベンチャー企業(http://www.alcatel-lucent.co.jp/press/2013/040313.html )だった。それにしても、そのCEOがインタビューの冒頭で、

 「クラウドコンピューティングの時代に、ネットワークに必要とされるのは高度な自動化だと分かってきた」

 えっ、今頃わかりつつあるの? と以降の記事を読む気をなくしましたが、一応我慢して目を通すと、まあ言っていること(CEOにしては技術的に過ぎる)は間違っていない、と思えた。実際の発言は、"We've been――"と、IT業界関係者すべてを含んで抽象的にWeを使ったかもしれない。しかし、この発言は、クラウドコンピューティングの定義に「自動化」があることを知らなかった(?)ほど、コンピューティング三大要素(コンポーネント)のひとつであるはずのネットワークは、ガラパゴス化していた証明だ。Software Defined Datacenter/Infrastructureを目指すには、各ネットワークベンダーの急進的努力が不可欠。そして、その次に、ようやくすべてのコンポーネントを統合する「運用管理ツール」が生まれる。

 『富士通が日本アクセスにEDIサービスを提供、東西2拠点のDCで2重化』(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130905/502703/?top_tl2 )では、「クラウド」と一言も言っていない。この仕組み自体は昔からあるEDI、それを、データとアプリの溜りを一箇所(プラスDRサイト)にして、あたかも手元にあるような感覚で操作できるSaaS型にしただけのこと。どちらの技術もクラウドが流行する前からあるものなので、あえてクラウドといわない姿勢は好ましい。

 それに比べると、Intelの『効率的なクラウドデータセンターの実現に向けた最新技術を発表』(http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1309/05/news106.html )は、単なるこじつけ。ネットワークソフトウェアベンダーの『Wind River』と連携することでSDNソリューションを提供するという、イーサーネット・スイッチは多少クラウドデータセンタに役立つものの、新型Atomチップそのものは、規定の技術開発とエコ・トレンドによって生み出されたもの以外の何ものでもない。

 日本HPによるこの発表――『国内クラウド事業者とのアライアンスを始動』(http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1309/05/news075.html )。

 本アライアンスに参画した企業はすべて、すでにクラウドサービスを自ら展開し、海外進出も狙っている、あるいはそれを果たしたサービス事業者。つまり、クラウドサービスの展開とその技術について、本来日本HPの協力は不要。それなのにこのような仕儀となった背景、というかサービス事業者側の動機は、HPの海外での認知度とサポート(プロフェッショナル・サービスと保守)体制を利用することにあるはず。 「プログラムを活用することで参加企業は(1)HPとの協業による自社サービス販売網の拡大、(2)海外展開の検討時におけるHPのグローバルサポート、(3)HPとの協調マーケティングによる販売促進、(4)HPの技術支援によるソリューションを用いた新規サービス開発と市場投入――といったメリットを得られる」

 と、小生の頭の中を見たようなコメント。しかし実際には、(4)だけは――サービス事業者からあまり期待されていない――HPの希望であることを、先を越された悔しさから、小生のコメントとさせていただく。

 HPがその背中を追い続けているIBMでは、『Googleがクラウド用コンピュータを自社開発か IBMとの協力で』といった臆測(http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1309/06/news02.html )が流れている。HPも、PCビジネスで首位に立ち(ただし海外市場)、Unixサーバでエンタープライズ市場ビジネスを加速してきたわけだから、IBMと抱えている事情は同じ。次はソフトウェアとサービスをコア・ビジネスとし、と同時に、Unixサーバで培った技術(Linuxに通じる技術)を利用してクラウド・コンピューティング市場で画期的な「コト」をする必要があるのに、幕下力士(国内クラウドサービスベンダー)にタニマチ扱いされて喜んでいるようでは先が思い遣られる。幕内力士、横綱と話ができるのは米国本社とはいえ、上申できる組織でないならば、役所かマンモス企業と同じでこの世界に新しい波を作ることは、永遠にないだろう。