ITForum&Roundtableコラム

2013年9月25日

製造業とともに

 今、日本で儲かっている業種は広義の流通。ネットショッピング隆盛の恩恵により、たとえばヤマト運輸は羽田空港付近に巨大な物流施設を建設中。そして、REIT(不動産投資信託)でも物流拠点を保有している銘柄に注目が集まっている。アマゾンや楽天、その他ネット系企業の大半も中間マージンで稼ぐ流通業であり、その力が強大になりすぎ、生産者や創造者に影響力を及ぼすに至っている。従来、流通業は薄利多売、生産者と販売者の間に立つ従者的存在だと思われていた。薬品業界ではまさにその通りの構図で、製薬会社と医者は儲かるけれど、卸業者は軒並み倒産、M&Aの嵐がついこの間まで吹き荒れていた。しかし、そうではない卸売業者も昔から存在している。出版界では「取次」といわれる卸業者、特に日販とトーハンの2社が最も楽をして儲け、出版社と書店の経営と、書籍の売れ行きまでをも左右している。出版社でさえ青息吐息、取次のご機嫌を伺う昨今、作家なんてもっと分が悪い。何故に物流を伴わない電子書籍の時代になっても定価は紙の本より高く、作家の印税は10%のままなのだろう――。

 安土桃山時代の頃から都を意識し、また誇りも持って現代に至った石川県。念願の新幹線が来年開通――東の京都に繋がり、喜びもひとしおだろう。あの日本海の土地で流通業というのはちょっと考えられず、やはり主役は製造業。それにしても、工業団地への移転第一号がデータセンタという話(http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20130915104.htm )は良いのか悪いのか。「クラウド事業拠点」といっているが、工業団地へ進出してくる企業を当て込んでいる様子が少し気に掛かる。
 製造業といえばERP、ERPといえば製造業といっても過言ではない。人、もの、金の回転率を上げることが製造業の要なのだから。
 日立システムズは、そんな製造業向けに、しかもSMBをターゲットにして、『生産・販売管理システムの機能を強化――他社製品と連携が円滑に』(http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1309/16/news007.html )と発表した。ついで、というわけではないが、卸売業向けにも同様のシステム――おそらく、製造業の在庫管理と販売管理部分を切り出したもの――を同時に発表した。

 そして今日、ERPシステム・パッケージ・ベンダの代表格であるSAPの、日本法人の動向に関する記事がある。『SAP日本法人、クラウド型ERPの発売が7年も遅れたのはなぜか』と題しているが、見出しを掘り下げれば、「クラウド版は利益が薄くて儲からないうえに自分の成績になるかどうかも怪しく、営業が売りたがらないし、社長も嫌がっていた」ということのはず。SAP-Jが市場情勢を見ておらず、自分たちの立場を守ることにのみ腐心していることは、「SMB向けにはクラウド版を提供する予定がない」と、この期に及んでも言っていることで明らか。ただし、彼らは、日本ではシステムベンダーとともに歩んできた歴史があり、上記日立システムズのようなパートナーに遠慮している可能性があること、またSMB市場を直接相手(クラウドによってそうなる)にできるほどのサポート体制(コールセンタを含む)を持っていないことも、SMB回避の理由として考えられる。SAPの導入コンサル費用は、SMBがおいそれと払えないほど高額で、それをシステムベンダを経由してエンドユーザから吸い上げる仕組みができている。

 ERPのように製造業の、そして多くの企業の本務でないところ――いわゆる事務作業の効率化とその延長線上にある話でクラウドサービス業界の今後を占っているのがこの記事、『Appleが企業向けクラウドサービスに本格参入する日』(http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1309/17/news042.html )。Appleがエンタープライズ市場に本格参入しても、それはMSやGoogleと事務系、営業支援系アプリで勝負するだけのこと。そもそもMSにしてもGoogleにしてもERPなど業務系アプリの世界では処理基盤を提供しているのみで本質には迫っていない。MSとGoogleにはAppleにないDBMS(Database Management System)とそのクラウドサービスがあるものの、それにしても製造業、流通業、販売業などで差のある仕組みでもない。つまり、Appleがこの市場に本格参入すると、本質的に色差がなくサービス事業者の知名度で客を奪い合っているIaaS市場のようになる。DBMSもエンタープライズ顧客基盤も持たないAppleが不利――。ということで、AppleがDBベンダを買収すると様子が変わり、三社のいずれかが業務パッケージベンダを買収すると、そこがトップに躍り出る可能性がある。エンタープライズ市場を攻めるということは、ノキアを買うような話とはまったく異なる。